4.29.2010

Bankruptcy Sale (363 sale)

今年に入って表題のBankruptcy Sale に関するdealを目にする数が減ってきましたが、景気の動向に関わらず、倒産した会社から資産を譲り受ける場合はあると思います。そこで、Chapter 11下の会社(以下「債務者」、a debtor-in-possessionの意)から、連邦破産法363条に基づいて、資産を譲り受ける場合の手続きと効果について、概観します。

I. 手続き

1.初回入札

まず、購入予定者は、債務者との間で資産譲渡契約(Asset Purchase Agreement)を締結します。この契約は後述のように破産裁判所の許可が必要ですが、もし、破産裁判所の許可が得られない場合には、どちらかの当事者がこの契約を終了させることができる様に構成するのが通常です。この購入予定者は、当該資産の底値を示すことから「おとり入札者(stalking horse bidder)」とも呼ばれます。

なお、この購入予定者は最初の入札の際に必要な時間と費用をかけていることから、この点を保護するため、購入予定者は、その後の競売手続において、より高額を提示する応札者がいた場合のための契約保護条項(通常、費用の償還や購入価格の3%の違約金)を設定するのが通常です。

2.売却通知/競売手続

債務者は、全債権者に売却を承認してもらうため、20日間の意見聴取期間を設けます。その後、債権者からかかる売却に関し異議がでた場合(又は異議がでない場合であっても)、破産裁判所は、競売手続を踏むことを求めることがあります。より高い、より良い提示がなされる可能性がある場合にはかかる手続きを踏むことが多いと思われます。

3.売却審査手続

競売手続を終えた後、破産裁判所は落札者の入札条件及びそれに付随する譲渡契約を勘案し、落札者への売却を許可するかについて審査を行います。同時にかかる売却に関し、異議があった場合の異議の内容についても審査します。その後売却許可が出された場合には、かかる許可は、裁判所が別途指示しない限り、10日間その効力が維持されます。

4.クロージング

このような売却手続は、多くの場合、裁判所からの売却許可が下りたら直ちにクロージングが行われますが、裁判所が効力発生までに最大10日間の期間を設定した場合には、当該期間が経過したときに、クロージングが行われることになります。

II. 効果

債務者は、当該資産を担保権、更生債権、その他負担が除去された状態で売却することができます。

III. その他留意点

上記手続きを経ずとも、通常の業務過程においては、債務者は、裁判所の許可なく資産を売却することができます。通常の業務過程には、通常業務において生じる在庫の売却などが含まれます。

4.28.2010

Foreign Corrupt Practices Act (FCPA)

昨年あたりから議論の俎上にのることが多くなったFCPAに関しての投稿です。

そもそも日本企業にFCPAの適用があるのかというところが最初に問題となりますが、この点についての記事Daniel Margolis and James Wheaton "Non-U.S. Companies May Also Be Subject to the FCPA"を見つけました。なお、ここで日本企業とは日本で設立された会社を指すことにします。また、適用される可能性がある場合の対策については、稿を改めたいと思います.


この記事によりますと、FCPAが日本企業に適用される場合として以下の4つの場面をあげています。
1.日本企業の米国子会社及び日本企業が、当該日本企業又はいずれかの子会社において雇用している米国人(U.S. Nationals)
2.米国のSecurities Exchange Act of 1934 Section 12に基づき証券を登録している者またはSection 15(d)に基づき届け出をしている者
3.日本企業の米国子会社が問題となる外国の企業とJoint Ventureを組成していたり、当該外国のAgentを使用している場合。
4.米国のTerritory内で、Anti-Bribery Provisionに抵触するような行為を行った場合(例えば、米国内で、外国の公務員等に賄賂を供与する場合)

1.から3.については、気をつけなければいけない場合が割とはっきりしていると思いますが、4.については注意が必要かと思われます。
米国に子会社がない場合や米国と関係ないビジネスをしているつもりであっても、米国内において当該行為が行われた場合(例えば、米国内のBanking Networkを使用する場合)にはDomestic Concernがあるとされて、FCPAに抵触することになります。実際にある日本企業の従業員が拘束された事例もありますので、注意が必要です。
カルテル(談合)等の事案にも当てはまることですが、米国においてこの手の経済犯罪では、企業に対する罰金だけでなく、実際に罪を犯した従業員が拘束される事例が多々あります。この点は、日本での運用と著しく異なる点だと思うので、留意が必要です。

また、米国内で行うことを避けたからといっても、日本にも同様の禁止規定があります(不正競争防止法18条。但し、FCPAのように積極的な運用がされているかについては、手元に資料がないので、不明です。)。また、英国でも最近より厳しい規制が制定されたようです(Bribery Act 2010)。さらに、当然のことながら贈賄等の対象となる公務員が所属する国にも禁止規定がある場合が多いと思います(適切な運用がなされているかは別問題としても。)。

新興国や発展途上国でのビジネスに関与されることが多い企業におかれては、益々当地の公務員等に対する便益を提供することをビジネスの獲得手段として使うことは難しくなって来たといえ、実際にビジネスに携わる部門の方々へのこの点の周知徹底が重要になってくると思われます。

4.18.2010

Data Security and Privacy Issues in Labor and Employment

アメリカにおいて、従業員を雇用している企業であればほぼ全ての企業が、dataやprivacyのsecurityに関して対策を講じる必要があります。
Data Security and Privacy lawsに関して、日本では個人情報保護法があり、EUでも個人情報保護に関して強い規制(directive)があると聞いていますが、アメリカでは上記のような網羅的な法律はありません。実際にEUの規制上、EUの個人情報をアメリカに移すのは難しいという話も聞いたことがあります。また、日本での個人情報の保護意識の高まりはご存知のことと思います(個人的には少し行き過ぎのような気がしますが。)。

上記のような背景事情から、アメリカでのData Security and Privacy Issuesの規制は緩いものと思いがちかもしれませんが、特にここ数年、アメリカでもdataやpersonal informationのsecurityに関心が集まって来ており、留意する必要があります。

なお、セミナーでは雇用関係の側面から、本件問題を取り上げていましたので、この投稿でもかかる観点からの報告になります。

I. 制定法の概観

アメリカでは、Health Care Providers等を対象としたThe Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996 (HIPAA)や金融機関を対象としたGramm-Leach-Bliley Act of 1999 (GLBA)など、特定の業種に対して制定されている法律があるので、これらの法律の対象となる業種の企業は、それぞれの法律に従う必要があります。

上記以外の業種の企業であっても、従業員を雇用している企業であればほぼ全ての企業が、dataやprivacyのsecurityに関して対策を講じる必要があると思います。 

なぜなら、アメリカの45州では、情報の漏洩があった場合にはかかる事実を開示する義務を企業に課しており(例えば、カリフォルニア州では、CAL. CIV. CODE § 1798.82)、かかる義務に基づき開示を行った企業に対して訴訟が提起される例が急増しているからです。

また、この開示を端緒として、Federal Trade Commission(FTC)のInvestigation(捜査)が行われることもあります(See Section 5 of FTC Act)

II. 訴訟の原因

漏洩の原因の中で20%以上を占めるのが従業員によるものだということです(さらにそのうち3分の2は従業員の故意によるもの)。

そして、上記で触れた訴訟において問われるのは、

• 情報を漏洩した従業員を雇用した責任(negligent hiring and retention)

• 情報安全保管義務違反、

• その他FCRA, FCFAA違反等法定の義務違反

• 漏洩した事実の開示による株価下落の損害賠償請求又は derivative cases(代表訴訟)

さらに、まだ実際に原告に損害が発生していない段階でも、漏洩が今後起こらないように監視を求めることを要求する場合もあり、その場合にかかるコストは事前に行う場合に比して、高額になる場合もあるようです。

III. 対策

上記のようなリスクを出来る限り回避するために、以下のような対策が考えられます。

• どの情報がSensitive Dataなのかを知り、かかるDataの所在(どこからどこに情報が流れて行くかということも含みます。)を把握する。

• 誰にアクセス権限があるのかを決定し、さらにその権限者の使用目的も限定する。

• さらに、詳細な管理の方法をマニュアルの形にする(また、そのマニュアルを効率的に運用させる。)。

• 情報を社外に出す場合の制限をかける。

• 情報を処分する際のルール(FACTA and the FTC disposal rule参照)を策定する。

• 従業員への研修(特に、漏洩が起きてしまったときの対応)を定期的に行い、理解を徹底させる。

• また、最近では、Cyber risk, privacy riskに特化した保険があるので、かかる保険に加入する。

特に、雇用関係では、

• 採用時のBackground Checkを行う際(各州法によって、要件が異なりますが、希望者の明確な同意を得ておく事が望ましい。)、

• 従業員との雇用関係が終了する際、

には慎重にSensitive Informationを取り扱う必要があります。

4.08.2010

Arbitration Clause - ICC v. AAA (v. JCAA) -

契約書を作成している際に、Arbitration Clauseを設けるか、設けるとしてもどの機関を利用するのか、については問題となることがあります。

日本の中だけで完結する契約においては、仲裁合意条項を設けるのは少ないと理解していますが、アメリカでは割と多く見受けられます。これは、アメリカでは訴訟手続きにJury System(陪審制)があることが大きな理由であると理解しています。

まず、紛争解決手段として仲裁を選択する場合、仲裁合意条項を記載する必要がありますが、同条項について、どの範囲の紛争について当事者が仲裁による解決の意思があるのかを明確にさせる必要があります(See Kuhn Constr, Co. v. Diamond State Port Corp, No. 124, 2009 (Del. Supr. Mar. 8, 2010)。
また、雇用契約の場合等一定の場合には、仲裁合意の仕方によっては当該条項が無効となる場合(例えば、カリフォルニア州)もありますので、書き方に留意する必要があります。

紛争が起きた場合に、仲裁により解決することを決めた場合、次にどの機関を利用するかが問題となります(アドホック仲裁と言って、機関を利用せずに仲裁を行うという手段もあります。)。仲裁機関としてよく見られるのが、American Arbitration Association ("AAA")やInternational Chamber of Commerce ("ICC")です。

AAAは、New York Cityに本部があり、International Center for Dispute Resolution (ICDR)という機関が管理機関となります。ICCは、Parisに本部があり、Court of Arbitrationという機関が管理機関となります。この管理機関は、書面のやり取りや仲裁人の選出等に関与するのみで、実際に仲裁判断を行う仲裁裁判所(arbitration tribunal)とは異なります。ただ、ICCのCourt of Arbitrationの方がAAAのICDRより関与の度合いは強く、手続き面でTerms of Reference(当事者の主張の整理や争点の整理を行う書面)を作成したり、仲裁裁判所の作成する仲裁判断を精査したりします。
どちらが有利か、どちらの機関を選択するべきかは、一概に決められるものではありませんが、一般的な評判としては、ICCの方が、仲裁人として登録されている人の評判や事務手続きの効率が良いとされる反面、コストもAAAより高いとされる傾向にあるそうです。その他、準拠法がどこの法律か、当事者のdomicile、契約の履行地その他契約上の属地的な要素も、仲裁機関の選択に当たっての考慮要素ではないかと思われます。

その他にも、南カリフォルニアを中心とするJAMSや、日本商事仲裁協会("JCAA")など,各地域にたくさんの仲裁機関があります。
JCAAについてですが、手元に正確な数字はありませんが、ICC, AAAに比べると圧倒的に扱う事件数が少ないと理解しています。なお、私はJCAAを仲裁機関とした仲裁事件に関与したことがありましたが、(日本の裁判手続きと比較して)予想外に時間とコスト(仲裁人にも相当の費用を支払う必要があります。)がかかり、その件に関しては、裁判手続きではなく仲裁手続きを採用するメリットは少ないように思いました。