10.31.2010

Employment Risk Management

先日、Japan Business Association of Southern Californiaという経済団体が主催するセミナー(講師:Lisa Kitagawa先生、望月良子先生)が開かれましたので、聴講してきました。

私が気になった点が中心となりますが、簡単に紹介したいと思います。

1. Job Application
  • 年齢の欄は設けない。アメリカでは、年齢に基づく差別は下記の通り違法です。
  • At willであることを明確にする。
  • Reference Check Releaseを設ける。これは、前のEmployerに申込者の前職での職務状況について聞いても良いことを同意する旨の文言です。これにより、実際に面接をする前にも、前のEmployerに話を聞くことができ、スクリーニングをかけられます。
  • 種々の申込資格への制限についても、Bona Fide Occupational Qualificationであれば許される(例えば、女性洋服のモデルの応募資格を女性に限る場合等)。
2.Interview
  • 質問は職務に関与する範囲で行うことを念頭に置く。個人的に日本でのリクルート活動を経験したわけではないので、日本での面接の実態について精通しているわけではありませんが、一般的な日本での面接と比較しても、かなり厳格に考えた方が良いと思います。
  • US Federal Equal Employment Opportunity Lawsにおいては、下記の項目に基づく差別を禁じています。詳細はこちら
    • Age
    • Race
    • Color
    • Gender
    • National Origin
    • Genetic Information
    • Religion
    • Disability
  • 日本の憲法14条列記事項と似ていますが、異なるところとしては年齢の項目がある点です。障害についても、憲法14条には列記されていませんが、障害者基本法がカバーしていると理解しています。
  • さらに、Californiaでは、下記の項目に基づく差別を禁じています。詳細はこちら
    • Medical Condition
    • Marital Status
    • Sexual Orientation(性的指向)
    • Pregnancy, childbirth
  • 例えば、Marital Statusについては、勤務時間帯を示してこの時間に働くことに支障はあるか、とか、出張勤務をするのに問題があるか、という聞き方をすることになります。
3.Job Description
  • これも日本においては、馴染みの薄いものかもしれませんが、Job Descriptionにおいて職務内容を明確にする必要があります。
  • また、ここで、雇用者と従業員との間で、当該従業員がexemptなのか、non-exemptなのかを明確にしてお互い了解を得ておくというプロセスが重要。なお、exempt employeesに分類されますと、雇用者は従業員にOvertime payを支払う義務がなくなります。どのような場合がexemptなのかについては、ケースバイケースの判断になることが多く、故に、よく訴訟の原因になる点でもあります。公的なものではありませんが、こちらが参考になります。
  • 職務内容の項目の最後に、catch all条項をつけておくことをお勧めするとのことです。
4.Posters
  • どのような項目、内容について職場に貼り出しておかなければいけないかについては、Federalについては、こちらを参照。Californiaについては、こちらを参照。
5.Employee Handbook
  • 日本法上の就業規則に相当するものですが、就業規則よりもより詳細に、ページ数も多いことが一般的です。
  • ここでも、At willであることを強調することが重要です。
  • さらに、Electronic Communicationの取り扱い、Internal Complaint Proceduresについても、留意して作成する必要があります。
6.Arbitration Agreement (仲裁契約)
  • 雇用者と従業員との間で何らかの紛争、問題が生じた場合には、訴訟ではなく、仲裁によって解決する旨を予め定めておくものです。
  • 通常は、Employee Handbook、同Handbookの受領通知(Acknowledgement and Agreement)の両方に記載があります。
  • そもそも、この仲裁同意条項を設けるかどうかも検討する必要があります。米国企業においては、仲裁手続きによると控訴できない(一回の判断で決まってしまう)ことから、仲裁同意条項を設けないという判断をすることもあります。
  • しかし、個人的には、日本企業は同条項を設けたほうがいいのではないかと思っています。米国の訴訟制度には、Discovery手続きがあり、かかる手続きに日ごろから備えている日本企業は少ないように思います。また、陪審制も日本企業にはなじみのない制度ですし、Juryがどのような判断を下すかの予測可能性が少ないとも言われます。
  • ただし、仲裁手続きにおいても、手続きをどう進めるかは、当事者間の合意又は採用された仲裁廷のルールによりますので、Discoveryの手続きが存在する場合もあります。従って、仲裁同意条項にどのルールを採用するべきかについては、慎重な検討が必要だと思われます。
  • また、同条項を設ける際に、Consideration (対価)を提供する必要がある場合があります。締結後変更する場合等には、2週間程度の賃金や追加休暇(PTO)をConsiderationとして提供することを勧められていました。
7.離職時の手続き
  • 従業員は、At willのステータスであるのが通常ですので、いつ従業員との契約を終了させてもよいことになります。ただ、差別に基づく解雇は違法ですので、他の従業員と比して、公平な観点から契約を終了させることが重要になります。
  • レイオフ等離職時に2週間分等の追加給与を与える例がありますが、これは義務ではありません。
  • レイオフや解雇等の場合には、その後当該従業員が不正を働かないか注意をする場合もあります。
  • Separation & Release Agreementは、従業員に離職手当を与えることを対価として、会社に対して一切の訴えを提起しないことを約する契約です。もし、従業員が40歳以上の場合には、本書面の締結に際して21日以上の考慮期間を与える必要があり、もし、40歳以上の従業員が2名以上離職する場合には、45日以上の考慮期間を与える必要があるとのことです。また、法定記載事項もあるので留意する必要があります。
8.その他
FLSA(Fair Labor Standards Act)に関する説明をしたDOLのサイトです。ご参考まで。

10.04.2010

M&A Basics

表題の所内のセミナーに出席しました。セミナーの概要に加え、自らの経験に基づく点にも触れながら、気になった点を取り出して書き留めておこうと思います。

I. 買収価格
Enterprise Value + Cash - Indebtedness - Transaction Expenses - Escrow Payment + Working Capital Adjustment = Purchase Price Payment (Equity Value)

1. Enterprise Value
通常は、EBITDAのx倍(なお、EBITDAの算定の基礎となるEarningsをどの程度の期間でみるかも決定する必要があります。直近12ヶ月とすることが多いもののそれより短期の場合もあります。)に、その他の要素を検討します。例えば、Non-recurring expenses, Excessive compensation, Professional fees, Severance expenses.

2. Working Capital Adjustment
通常は、Current Assets (e.g. A/R) -(minus) Current liabilities (e.g. A/P) で算出されます。

3. Escrow Payments
Dealing with PE Fundsの稿でも述べた通り、General Escrowの他、特定の訴訟や環境問題だけのためのEscrowを設けることもあります。

4. Deferred Purchase Price
これには、Earnouts ProvisionsやEmployment Agreementに基づくボーナスの支払い分等が挙げられます。

5. EVについてStart-upsの場合の例外
Revenueで計算されることが多いようです。起業してすぐ利益(Earnings)が出ることは稀であるため。

II. Purchase Agreementのドラフティングにあたっての留意点
この点は、本当に私の主観的基準により取り上げた留意点ですので、私以外の方に参考になる部分は少ないかもしれません。ただ、これは特にアメリカでの取引だけでなく、世界中どこでの取引でも当てはまる部分が多いと思われます。

1. 定義条項
  • "Knowledge":"Buyer", "Seller"だけではなく、その組織の中の誰のKnowledgeなのかという点を明確にする。例えば、Senior Management(これ自体も定義が必要)、CEOなど。さらに、Actual v. Constructiveなのかという点も交渉事項になりえます。
  • "Material Adverse Effect":近年、たくさんの裁判例がでているところであり、綿密なドラフティングが必要なところです。買主としては、出来るだけ多方面から予想しうる事態を出来るだけ明確にした形で規定する必要があります。
  • "Losses": Consequential/Punitive, Diminution in value/"multiple of earnings", Cost to bring business into compliance 等
2. 表明保証条項
  • Disclosure scheduleにおいて、"Reasonably apparent" v. explicit disclosureか。
  • その他、通常の表明保証事項のリストがありましたが、申し訳ありませんが、割愛させて頂きます。
3. Pre-Closing Covenants
  • No-shop clause、HSR等
  • Seller's Notice of Changesにおいて、Sellerが通知をした後の処理については留意点(一定の期間に何らかのアクションをとる義務がBuyerにあるのか、Closeした後アクションを取ったとき等)
4. Indemnity
  • Duration of Survival Periods, "fundamental" representation (eg. organization, due authority, capitalization) については無期限、またその他Statute of Limitationを考慮、その他については一定の期間を設けるの通常。 
  • Cap & Basket: Basketの中には、Deductible v. Tipping (ヒットするとそれまでの分も補償する必要がある仕組み。)。また、fundamental rep等を例外とすることもあり。
5. その他
  • Foreign antitrust regulations
  • Transfer Pricing
  • Deemed dividend issue
  • Fiduciary duties of directors