5.23.2010

Classifying Individuals as Independent Contractors instead of Employees

業務従事者が実際にはEmployeeであるにも関わらず、Independent Contractor (業務請負人、IC)として扱われている場合の問題(日本でいう偽装請負)に関して、所内で行われたセミナーの概要についての投稿です。

1.運用の厳格化、最近の状況
2.運用上の差異、ICとして扱ってしまった場合のリスク
3.ICとEmployeeの区分基準
4.ICと契約するにあたって留意するべき点

1.運用の厳格化や最近の状況
NY Timesの記事やLos Angeles Daily Journalの記事(これは有料の記事のようです)等によると、オバマ政権は,今後10年で行政指導(IRSの調査等)や罰金の徴収等で$7 billionの税収増を見込んでいるとのことです。Government Accountability Office (GAO)のレポートによると、従業員としての実態がありながらICとして扱われているというケースは、最低でも150,000件はあると推測されていますし、IRSでも、かかる問題により1984年の時点で$1.6 billionの税収のロスがあると推測しているそうです。
現在、Fair Labor Standards Act (FLSA)に関しては、記録義務の厳格化や罰金の上限額の引き上げについての改正について議論がされています。各州でも同様の動向があるようです。

さらに、カリフォルニアにおいては数年前から、meal period/rest periodの規制違反に関して大規模なクラスアクションが多数提起されていましたが、現状は雇用者側に有利な状況にあるようで、雇用者側に有利な判決がでれば、原告側の代理人は新たな争点を探すことになり、この偽装請負に関する点は次の争点として浮上するかもしれません。

上記のような点から、この論点は現在注目を浴びつつある論点ということが出来ます。

2.運用上の差異、ICとして扱ってしまった場合のリスク
業務従事者がICであれば、
  • 雇用者はSocial Security TaxやMedicare Taxの負担を免れる。
  • Income tax withholding (state and federal)の義務を免れる。
  • Workers Compensation (労災補償)やUnemployment Insurance(失業保険)の保険加入を免れる。
  • Training等に費やす時間に対して、対価を支払わなくてよい。
  • 経費を支出した場合に当該額を償還しなくてよい。
  • Anti-discrimination laws, minimum wage and overtime laws, tortsなど、法的リスクが少ない。
  • プロジェクト毎に支払われる形態の契約であれば、コスト管理がしやすい。
  • 期間の面でも、柔軟性を保てる。
このような差異から、雇用者としてはできるだけICとして契約をしたいというインセンティブがあります。
しかし、書面上ICとして契約したとしても、実態はemployeeと認められる場合には、下記のようなリスクを負うことになります。
  • Workers Comp.やUnemployment Insuranceに加入していなかったことによる、所轄機関からのペナルティ(罰金等)
  • 実際に労災の請求が訴訟に発展した場合、Legal Costについて保険でカバーされなくなる。
  • 過去支払うべきだったUnemployment Insuranceの保険料の支払。
  • 従業員からの訴訟の提起(ICとして扱われたことによりbenefitが受けられなかった。)とそれに対する従業員への損害賠償
3.ICとEmployeeとの区分基準
かかる基準は、どのようなコンテクストで問題になるかにより異なります。また、基準がある場合でも、各事案によりどのような事実が存在するかが重要になってきます。

A. カリフォルニア
Labor Code 3357により、Employer/Employeeの関係があることが推定されます。従って、雇用者が反証しない限り、Employeeと認められてしまうことになります。反証する要素としては、Labor Code 2750.5に規定があり、
(a) That the individual has the right to control and discretion as to the manner of performance of the contract for services in that the result of the work and not the means by which it is accomplished is the primary factor bargained for.
(b) That the individual is customarily engaged in an independently established business.
(c) That the individual's independent contractor status is bona fide and not a subterfuge to avoid employee status. A bona fide independent contractor status is further evidenced by the presence of cumulative factors such as substantial investment other than personal services in the business, holding out to be in business for oneself, bargaining for a contract to complete a specific project for compensation by project rather than by time, control over the time and place the work is performed, supplying the tools or instrumentalities used in the work other than tools and instrumentalities normally and customarily provided by employees, hiring employees, performing work that is not ordinarily in the course of the principal's work, performing work that requires a particular skill, holding a license pursuant to the Business and Professions Code, the intent by the parties that the work relationship is of an independent contractor status, or that the relationship is not severable or terminable at will by the principal but gives rise to an action for breach of contract.(太字は筆者)
等の要素により総合的に決定されます。

B. Economic Reality Test
Federal Lawが問題となる場合には、Economic Reality Testが適用されます。
(a) the degree of control exercised by the alleged employer; 
(b)  the extent of the relative investments of the [alleged] employee and employer;  
(c) the degree to which the "employee's" opportunity for profit and loss is determined by the "employer"; 
(d) the skill and initiative required in performing the job; and  
(e) the permanency of the relationship.

C. IRS
さらに、IRSは、下記のようなテストを適用します。
Facts that provide evidence of the degree of control and independence fall into three categories:  
(a) Behavioral: Does the company control or have the right to control what the worker does and how the worker does his or her job? 
(b) Financial: Are the business aspects of the worker’s job controlled by the payer? (these include things like how worker is paid, whether expenses are reimbursed, who provides tools/supplies, etc.)  
(c) Type of Relationship: Are there written contracts or employee type benefits (i.e. pension plan, insurance, vacation pay, etc.)? Will the relationship continue and is the work performed a key aspect of the business? 
上記テストには、Reasonable BasisというSafe Harbor Defenseがあります。

D.その他、Unemployment and Workers' Comp. Testというテストもあります。

4.ICと契約するにあたって留意するべき点
以上の区分基準から、ある業務に関して、作業従事者をICとして契約する場合に留意するべき点としては、下記のような要素があげられます。
  • ICであることを明記する。
  • ICを支配下に置いていると認められる規定は避ける。
  • 指示を出すのではなく、出来る限り"Recommend"するに留める。
  • 作業や成果物に対して対価を支払い、労働時間に対して対価を支払わない。
  • 作業に従事する作業員に関する責任(各種保険、税金等)は、ICが負う。
  • Employee Benefitを放棄する旨の規定(万が一、Employee Relationshipが認められた場合)
  • 期間は、プロジェクト毎または一定期間("at will"とはしない。)
  • 作業に必要な道具、設備、費用はICが負担する。
と言った点に留意し、また、契約に規定するだけでなく、契約の規定に従って運用をすること(場合によっては、適切な運用がなされているかの監査も行う)が肝要です。

5.17.2010

Product Liability 101

所内で行われたセミナーで、印象的だった点を記します。前提として、Product Liabilityが問題となるケースにおいては、多数の消費者が大企業を訴えるという構造になるのが通常で、当事務所は被告(defendant、企業側)の代理しています。

1.Product Liabilityのようなケースは、訴えられる企業にとって、相手は原告代理人であって、多数の消費者ではないこと。しかも、その原告代理人はSophisticateされていて、かなり手強いこと。
  • 大体のケースにおいては、原告代理人が率先して、原告に参加するように募り訴訟の遂行もリードすることになるようです。
  • 原告代理人の方がいいレストランやいいワインを知っていることが多い等それだけ成功している弁護士が多いそうです(笑)。
2.1.の点と関わりますが、原告代理人は被告の嫌がることであれば何でも行う(Press Releaseや多大な負担のあるDiscovery Request等)ことから、被告にとっても早期に代理人を選任して、原告代理人の活動に制限をかける必要があること。

3.代理人の選任に当たっては、訴えられた管轄に所属する弁護士(Regional Counsels)と共に(複数の管轄地で訴えられることが通常)、それらの弁護士をまとめるNational Counselを選任することも検討すること。
  • 特に、大都市ではない管轄地の場合、Product Liabilityのようなケースを扱える様な弁護士は数える程しかいないことが多いので、選任は早ければ早い程よいことになります。
  • National Counselの選任の要否は、In-house Counselで対応できるかどうかですが、National Counselの役割としては、全体の訴訟遂行方針を策定し、Discoveryの際の文書の管理等、さらにPleadingsやBriefsの統一(管轄地毎に矛盾が生じないように)など、膨大な作業量を迅速にこなさなければいことに留意が必要です。結局は、In-houseを含めた法務部の規模と当該訴訟の規模の比較の問題かと思われます。
4.上記以外に初動としてするべきことは、
  • 文書の速やかな保管(e-Discoveryの稿において述べたとおり)
  • 会社(被告)側証人(候補)の選定、及び、
  • 加入している保険条項の検討(多くの場合、保険会社への通知が必要)
が、挙げられます。

5.Multi-District Litigation (MDLs)
Trialの前段階において、複数の管轄地で提起された訴訟(Federal Casesについて。州によっては州内でMDLを認めている州もある。)について、訴訟を併合する手続きがあります。どんな手続きでもMDLを採用した方がよいというわけではなく、提起された訴訟の数や場所、事件の性質(ある一つの州だと勝つ可能性が高い等)を鑑みて、採用されることになります。どこの管轄に併合されるかについては、証拠収集(文書、証人等)のしやすさ、Judgeの経験,事件の場所等が勘案されます。因に、Judgeの経験という観点からすると、Eastern district of Louisianaの裁判所はMDLの訴訟遂行地として選ばれることが多いそうです。
今回のトヨタの訴訟など大規模な訴訟は、MDLによる他ないと思われますが、管轄地が二つや三つくらいであれば、採用するべきではない場合もあるかと思われます。

6.Company Witness
これは、Product Liabilityのケースに限った話ではありませんが、被告側証人というのは有利な証言をしてくれると思い込み、軽視しがちです。しかし、裁判において、被告側証人の証言のみによって勝つことはないが、同証言のみによって負けることはある(もちろん証人本人は会社側に有利になるよう証言しているつもりです。)、というのを肝に銘じておかなければいけないそうです。

表題のセミナーは第二回もあるようなので、その概要については稿を改めたいと思います。

5.15.2010

Presentation Skill

私の所属している事務所内でアソシエイト向けにPresentation Skillの向上のためのセミナーがありました。主に弁護士がパートナーや依頼者にPresentationをすることを想定しているため、1対1の場面を想定したセッションでした。

そもそも、Presentation Skillに関するセミナーを日本の法律事務所で行うというのは滅多にないと思います。日本企業の内部はどうかは知りませんが、一般にアメリカ人がプレゼン上手といわれているのは、日頃からこのようなセミナーを開催する等Presentation Skillを磨くことに注力しているからだということなのだと思います。(そういえば、裁判員制度導入の際に弁護士会の企画で、如何に裁判員にプレゼンをするかというセミナーはあったと思いますが、その際の講師もアメリカのTrial Lawyers (法廷にたつことを専門としている弁護士)だったようですね。)。

このセミナーで学んだ点をいくつか記します。

1.まず、人には、 思いついたことをばんばん喋りながら頭を整理して行く人や黙って人の話を聞き、その他の情報をじっくり分析しながら論理を組み立てて行く人等、様々な性格があるので、話す相手がどのような性格があるのかを分析すること。例えば、前者の人であれば、プレゼンの際には、本当に簡潔に重要な点のみをハキハキと述べることが重要だし、後者の人であれば、相手が考える時間を与えるためにゆっくり、また、トピックの切れ目には少し長めに間を持たせることが重要だというような話がありました。

2.また、話す際の姿勢ですが、

  • 常にアイコンタクトをし、
  • 背筋を伸ばして椅子の前半分を使って座る(椅子の背にもたれかかってもいけないし、机に寄りかかってもいけない)、
  • 両足は床に着けておく(離すと体が動いたりして、相手が自分の話に集中できなくなるから)、
  • 手は前で組まず(相手との間に壁ができてしまう)、自由に動かす(ジェスチャーを大きく)為に、肘をテーブルにつけない、
  • 簡単で、ぱっと見て目に入るメモを準備する、
  • メモに目を落としている間には絶対に話をしない(これにより相手もそれまでに聞いたことを消化できる)、

等の点を挙げていました。アイコンタクトや大振りなジェスチャー等は、日本の社会においては、また別のルールがあると思いますが、少なくともアメリカ人を相手に話をする場合には、留意するべき点ではないかと思います。

私も、実際にセミナー中に練習したところ、自分では姿勢を正して座っているつもりでも、机に寄りかかっている点を指摘されたのと(それにより手が自由に動かなくなる。)、手でペン等をいじる癖があるようで、話をしている間はペンを届かないところに置いておくという点を指摘され、目から鱗でした。

5.06.2010

Earn-Out Provisions

本稿では、昨年末のケースを取り上げ、Earn-Out Provisionsを契約書中に規定する際に留意するべき点をお伝えしたいと思います。

Earn-Out Provisionsとは、M&A取引等の際に、クロージング時に一括して買収価格を支払って取引が完了するのではなく、将来の業績に応じて契約内容を調整することを約する規定です。よくある例としては、クロージング時に○ドル支払い、その後○年間にわたり、将来の業績に応じて○○の利益の○%を支払うというような内容がこれに該当します。

Airbourne Health, Inc. and Weil, Gotshal & Manges LLP v. Squid Soap, LP (November 23, 2009)においては、Airbourne(買主)がSquid Soap(売主)が開発したproductsに関する資産(「本件資産」)を購入する際の資産譲渡契約(Asset Purchase Agreement、「本件契約」) 中のEarn-Out Provisionが問題となりました。本件契約においては、Airbourneがマーケティング費用としてUSD 1 millionを支出せず、最初の12ヶ月でnet salesがUSD 5 millionに達しなかった場合には、Airbourneは本件資産を戻せるという条項が設けられていました。本件契約の締結後まもなく、Airbourneの経営状態が悪化し、Airbourneは上記マーケティング費用を支出せず、本件資産を返却することで経営を正常化しようとしたのですが、Squid Soapは返却に応じなかったので訴訟に持ち込まれました。

裁判所は、本件契約中にAirbourneのmarketing programの遂行に関する表明保証条項等の文言がないことを主な理由として、Squid Soapの主張には理由がない、従って、本件契約の条項に従って、本件資産の返却に応じなければ行けない旨判示しました。

判断の帰結は妥当なものであると私も思いますが、Earn-Out Provisionは、そもそもが将来起こることについての規定なので、規定の仕方に慎重を要するということが本事案の教訓かと思います。本件を例にとると、売主としては、締結時の買主の経営状態についての表明保証、及び将来どのような方法でmarketingを行うか等の詳細なcovenants規定を設けて、買主の義務を明確化する必要があったのではないかと思います。
また、下記参考文献によると、買主側にとっても、non reliance provisions(契約書に規定されていること以外には依拠できないこと)を入れていれば、上記のような紛争は生じなかったであろう旨述べられています。

参考文献:Michael Kendall  “Delaware Case Highlights Common Pitfalls to Avoid With Earn-Out Provisions